概要

研究会の設置目的

有機合成化学は、医薬品、農薬からファインケミカル、さらに機能性材料等の様々な有用物質の合成法を提供することにより、高度文明社会を支えてきました。しかし、現状の学術・技術水準に甘んじることなく、今世紀の最大命題である「希少・枯渇資源の有効利用と再生可能資源の活用促進を原則とした元素戦略」、「持続可能な循環型社会の構築」に即した科学と技術を確立し、社会的要請に対応するための製造技術や生産システムに基づいた最先端の「モノづくり」(高付加価値の新機能性材料や医薬品の創製)は益々重要となってきています。こうした製造技術や生産システムに革新的な技術をもたらしてきたのが、1970年代から現在に至るまで活発に開発研究がなされている金属錯体触媒を用いた分子変換です。一方、2000年ごろから、光学活性な有機小分子が優れた不斉触媒能を有することが再認識され、「有機触媒」として一躍脚光を浴びるようになってきました。

「希少・枯渇資源の有効利用と再生可能資源の活用促進を原則とした元素戦略」、「持続可能な循環型社会の構築」は今や喫緊の社会的要請となっています。日本が先導する「有機触媒」を基軸とした触媒反応系の開発は、これらの要請に応える方法論として精力的に開発研究が進められてきました。このように世界規模の開発競争が繰り広げられる中、日本の「有機触媒」に関する研究開発力の優位性を継続的に維持するためには「有機触媒」をキーワードとする産学連携を目的とした組織を設立し、総力を挙げた開発研究を推し進めることでその力量を飛躍的に向上させることが不可欠です。

2021年ノーベル化学賞が「不斉有機触媒」に授与されたように、その開発による環境調和型プロセスとしての重要性は益々高まっていますが、その一方で、産業界への実用化は未だ限定的となっています。加えて昨今の「有機触媒」の開発研究は周辺分野を巻き込みつつ、「金属錯体触媒」とのハイブリッド化、さらには再生可能エネルギー(光・電気)を活用した反応開発へと、多様化と高度化が急速に進展しています。学術研究の展開に応じた産学連携が不可欠であり、本研究会はこれらを包括した触媒系を対象とし、その方法論のさらなる拡充と実用化に向けた取り組みによって革新的な技術開拓に基づく高度分子変換の産業化を実現することを目的としています。

研究会の役割

有機触媒研究会の性質上、最も重要な案件は、学術界側のシーズと産業界側のニーズのマッチングです。一方で、人的、時間的制約で企業に眠っているシーズを学術界側で育て、企業のニーズにマッチする形で還元することも、この研究会では重要な案件と位置付けています。産業界で必要とされている技術の芽を学術界の自由な環境下のもとで育むことを、新たな試みとして特にとり挙げます。そのため、研究会の主な役割は人的交流を通じた情報交換となりますが、これらを円滑に実施・促進するため、学術の最先端を紹介する講演会形式のシンポジウムを開催するとともに、併せて情報交換の場を設けます。産業界の将来を担う若手研究者の人材育成をするとともに、その活躍の場となる舞台を提供することを有機触媒研究会では目指しています。

期待される成果

「有機触媒」は、高価あるいは残留毒性が高い金属を使わずに有機反応を促進することから、触媒の取扱の容易さとともに、環境負荷の軽減やレアメタルの枯渇あるいは高騰といった社会的な問題に応えうる技術として元素戦略の観点、さらにはグリーントランスフォーメーションを実現する人材育成の観点からも注目を集め、急速に開発研究が推し進められています。その急速な発展の背景には以下に列記する「有機触媒」の特徴が大きく関わっています。

  1. ① 触媒分子が共有結合により構築されており、化学的に安定であるため回収再利用が容易
  2. ② 触媒分子が空気や水に対して安定なため、反応の際に特殊な技術が不要で手軽
  3. ③ 金属錯体触媒に比べ安価で、多くの場合、触媒の合成に特殊な実験技術や設備が不要
  4. ④ 有機触媒反応の組み合わせによる連続反応で複雑な化合物をワンポットで一挙に構築可能
  5. ⑤ 金属錯体触媒の場合は生成物への金属の混入が問題視されるが、有機触媒では不問
  6. ⑥ レアメタルの枯渇などの問題を回避するための元素戦略技術として有望

これらの特徴を備えた「有機触媒」による分子変換を実現し、「希少・枯渇資源の有効利用と再生可能資源の活用促進を原則とした元素戦略」、「持続可能な循環型社会の構築」に応え得る「モノづくり」を現実のものとすることは、資源の乏しい我が国にとって火急の要件となっています。本研究会ではこうした有機触媒の特徴を最大限に活かしつつ、これを基軸とした触媒系の開拓とともに「金属錯体触媒」「ハイブリッド触媒」など関連する触媒系による高度分子変換技術の確立を目標としています。加えて、再生可能エネルギー(光・電気)を活用した反応開発へと、学術界における開発研究は多様化と高度化が急速に展開しており、これらの学術界における研究成果を産業界へと橋渡しすることが急務となっています。本研究会の活動により、学術界と産業界の連携研究を円滑かつ効率よく進めていくことで、これらの技術の確立が加速されるものと期待されます。学術界の基礎研究から応用展開することで実践的なプロセス開発への道を切り開き、さらには実業化へと結び付けることで企業の収益として、最終的には国益につながる最先端技術の開拓を目指しています。

研究会の沿革

有機触媒研究会は有機触媒に関する学術研究を目的として丸岡啓二教授(京都大学)が設立し、2007年2月に活動を開始しました。研究会の発足時は学術界の会員のみで構成されていましたが、その後、学術界の研究活動は2011年7月に採択された文部科学省科研究費補助金・新学術領域研究(研究領域提案型)「有機分子触媒による未来型分子変換」へと受け継がれました。有機触媒に関する学術研究の急速な発展に応じ、産学連携を目的とした組織の編成が必須との考えのもと、2015年4月に研究開発専門委員会「有機分子触媒による高度分子変換技術」が日本学術振興会の支援を受けて設立されました。この研究開発専門委員会では、有機触媒研究において先導的立場で活躍している学術界委員として、大学より17名の教員を、また、産業界委員には、これまでファインケミカルの粋を尽くして小分子医薬品合成に当たってきた主力製薬メーカーならびに化学産業界から17社を法人会員とし、さらに、産業界に対して有機触媒のスムーズな提供を促すことを目的として、市販試薬を販売している法人3社を選抜し、研究開発専門委員会を発足しました。また、運営を効果的に行うため、委員会のメンバーから数名の幹事を選出して幹事会とし、この幹事会において、研究開発専門委員会における研究会企画等について立案し、事業の推進にあたってきました。

研究開発専門委員会は日本学術振興会から活動費の支援を受けながら2018年3月に3年間の活動を終え、翌年度の2018年4月からは参画企業から活動費の支援を受ける自立した産学連携組織へと継承されました。いわゆるナンバー委員会と称する日本学術振興会・産学協力研究委員会の一つとして、第194委員会「分子性触媒による高度分子変換技術」が設立されました。第194委員会はこれまでの研究開発専門委員会で培ってきた人的交流を通じた情報交換を基盤としつつも、さらなる発展形を目指すことを意図し、「有機触媒」に変えて「分子性触媒」を委員会名称に据えることにしました。改称の意義は、これまでの有機触媒における最先端の研究成果を活かす上で、既存研究である「金属錯体触媒」「ハイブリッド触媒」など関連する触媒研究との融合をも視野に入れた産学連携が必須であるとの考えに基づきます。

日本学術振興会からの運営支援を受け活動していた第194委員会は2023年3月をもって5年間の活動を終えて解散となりましたが、この産学連携活動を継承する目的で設立されたのが「有機触媒研究会」です。第194委員会と同様、本研究会は参画する産業界会員(法人会員)から活動費の支援を受けて運営します。2007年2月に設立した「有機触媒研究会」と名称を同じくしておりますので研究会の再開とも解釈されますが、設立から15年近くを経ており、目的にも記載した通り、この間、「有機触媒」ならびに関連する学術研究の多様化と高度化が急速に進展しています。本研究会はこれらを包括した触媒系を対象とした産学連携の推進を目指しています。

研究会運営内規

有機触媒研究会の運営内規は「こちら※」をご覧ください。